【続きです】
自分の親と同様に腹いっぱい食わせるこ
とが、親の役目だと思っていた中卒夫婦
。私のところに来てくれたお礼は何がい
いだろうか。このままではいけない。私
が流れを変えなければいけない。私も大
人になり、子供を持つ親となってみて、
私たちの家系こそ流路変更工事が必要だ
と思い始めていた。

流路変更工事
代々中卒、教育に関心のない親が子育て
をする為に受け継がれた伝統。身内のど
こを見回しても学歴なんてものは見当た
らない。

代々中卒、身内のどこを見渡しても学歴なんてものは見当たらない。
中卒が子どもを産み、『元気が一番!カ
ンプマサツすりゃあ、風邪なんてひかね
え!』その程度の生活の知恵をつけさせ
ただけで、勉強をさせるという発想もな
く、また中卒を育ててしまう。
そしてその子はまた当然のように、同じ
道を歩む。間違いなく『負のスパイダル
』。誰かがこの川の流れを変えなくては
いけない。

『元気が一番!カンプマサツすりゃ、風邪なんか引かねえ!』と言って育てられた。
『わんぱく川』と呼ばれるその川は、
一級河川のように、国がその重要性を認
めてくれるわけでもなく、二級河川のよ
うに、都道府県が水質を監視してくれる
わけでもなく、普通河川のように、市町
村がゴミ捨て禁止の立て札を建ててくれ
るわけでもない。

一級河川の『芦田川』(広島県府中市)
河川というよりは『用水路』。もしかし
たら『不要水路』空き缶が散乱し、時に
は水が枯れ、時には氾濫を起こしながら
排水路のような扱いを受けて来た私たち
の川。すべて自業自得。

『用水路』のような扱いを受けて来た私たち。
これでいいのだろうか?こんなかわいい
娘が誰からも景色として眺められること
もなく、排水路だけのために利用される
ことを黙って見てていいのだろうか?こ
れはどこかで子の川の流れをせき止め、
強引に方向を変える必要がある。今のま
まではいけない。
このままの流路では、近所の人々が排水
路として利用し続けてしまう。娘にそん
な思いをさせるわけにはいかない。流路
変更工事しかない。絶対この流れをせき
止める。中卒はオレの代までで十分だ。

中卒はオレの代までで十分だ。
中卒の流れをせき止めるって、別にたい
したことではないはずだ。高校を卒業す
るってのも、それほど難しいことではな
いはずだ。みんなにデキルことがデキな
いはずがねえ。霧の向こうにある世界、
いや、もっと遠くモヤをかき分けたその
先のずっと向こうにある世界。カオリは
高校を卒業させるだけでは終わらせねえ
。もっと素敵なステージがその先にある
はず。いや、絶対にある。オレはそれを
探す。

カオリは高校を卒業させるだけでは終わらせない。もっと素敵なステージがあるはずだ。
私は塾に相談せず、深夜のパソコンに向
かった。そしてその夜、『桜蔭中』の名
前を知ることになるのだ。
桜蔭中・受験日は2月1日。
偏差値72(中学受験塾サピックスより)
平成23年、東京大学75名・卒業生234
名(ホームページより)の合格実績。

『桜蔭中』
私の目は点になった。まさにこれがエリ
ートだ!(高校偏差値で言えば10プラス
されるので、偏差値は82となる。)翌日か
らいろいろ調べていくうちに段々分かっ
て来た。『おういん』と読むこと。それ
が中学受験の最高峰であること。
東京ドームの近くの坂の上から常に下界
を見下ろしているというコト。

東京ドームの近くの坂の上から常に下界を見下ろしている桜蔭中学。
平凡な頭では決して近ずくことすら許さ
れないというコト。
6年間をそこで過ごし、東京大学をはじ
め、全国の超一流大学へ巣立っていくと
いうこと。

桜蔭中学は全員が女の子である。
そして、その全員が女の子であるという
コト。
そうだ!『桜蔭中』を目指そう。
なんだかんだ、いろんなことがあって、
1月31日午後9時15分、無事、1年半の受
験勉強終了。2月1日に『桜蔭中』の入学
試験がある。父と娘だけの『親塾』を乗
り切った娘が言った。
『結構、楽しかったネ!』
これが1年と5か月を締めくくるカオリの
感想だった。

『結構、楽しかったネ』それが娘の感想だった
そして、2月1日の『桜蔭中』の入学試験
が終わった。
『あのさぁ、・・・』
桜蔭坂を一緒に下りながらカオリは話
し始めた。
『いつか、自分に子どもが出来たら、絶
対に桜蔭中に行かせる!』
と、突然そう言い始め、受験の手ごたえ
がイマイチで、もうリベンジのことを考
えているのかと不安になった。

『あのさぁ、父さん!いつか自分に子供ができたら、絶対に桜蔭中に行かせる!』
『ところで父さん、面接、ちゃんとやっ
てくれた?』
『やったよ!しっかり答えたよ。きっと
父さんのこと、エリートだと思っている
はずだ!』
『ホント?』

『面接、しっかり答えたよ!』
カオリには言えない。まさか面接で愚か
な回答をしてしまったなんて、口が裂け
ても言えない。ここはゴマカすしかない
。危険を感じた私は守備にまわらず、攻
撃をした。

『面接で、きっとお父さんのことをエリートだと思ってるはずだ!』
『カオリはしっかり答えたか?』
『うん、エリートの子だと思ってるハズ
!』
『そうか!』

『きっと、エリートの子だと思っているはず』
私たち二人は大笑いをした。こうして、
2月1日は終わった。
その翌日、カオリは桜蔭中を不合格にな
った。

『・・・・・・・・・・』
【またまた続く】