①免疫細胞はアレルギーの原因の1つの花粉を、寄生虫と勘違いしたらしい

茂呂和世先生

茂呂和世先生(大阪大学大学院医学系
研究科教授)という方がいます。この先
生、今から15年前、マウスの腸内の脂
肪組織を観察していたら、不思議なモノ
を見つけたんですよ。『あれっ?これ何
だろう!』『何でいるの?』腸の脂肪組
織に何故か脂肪以外のものが点在してい
たんですよ。その1個を拡大してみると、
無数のリンパ球でした。

脂肪組織に無数のリンパ球が点在していた

この当時、カラダの端っこの脂肪組織に
リンパ球がいるとは誰も考えてもいなか
った。でも、こんな小さなリンパ球だが
何かしているハズだと思って、中にいる
細胞をよ~く観察してやろうと思った。
そしたら、驚いたことに、その細胞は寄
生虫対策の為の自然免疫の新種のリンパ
球であることがわかったんですよ。

青いのがリンパ球、ピンク色は血管

で、その細胞は2型自然リンパ球、略し
て『ILC2』と名ずけられました。この
『ILC2』こそが正体なきアレルギー反応
を引き起こす犯人であることを、茂呂先
生は明らかにしたんです。

2型自然リンパ球『ILC2』

寄生虫の多くは腸に侵入して来る。その
ため、『ILC2』は腸の壁の内側で待ち構
えている。その攻撃も複雑で精密だ。

2型自然リンパ球の『ILC2』は腸の壁の内側で待ち構えている

寄生虫によって腸の細胞が壊されると、
全身に危機を伝えるシグナル『IL‐33』
が放出される。それによって、『ILC2』
は活性化され、自らもメッセージ物質
を分泌し、寄生虫撃退の専門部隊の
『好酸球』を呼び寄せる。

『ILC2』は『好酸球』を呼び寄せる

集まった好酸球は攻撃物質を分泌して寄
生虫を弱らせる。続いて『ILC2』は別の
メッセージ物質を分泌して、粘膜の粘液
の量を増やす。これによって、弱った寄
生虫を体外に追い出すのだ。

『ILC2』は別のメッセージ物質を分泌し、粘膜の粘液の量を増やし、寄生虫を対外に追い出す

かつては日常生活の中で寄生虫に感染す
るリスクと隣り合わせでした。その中で
、『ILC2』は正しく攻撃できるように訓
練されていた。ところが生活が豊かにな
り清潔になったことで、『ILC2』が訓練
される機会が減ってしまったんですよ。

生活が便利で清潔になったことで、『ILC2』が訓練される機会が減ってしまった。

『ILC2』は宿主を助けたい気持ちで頑張
っていて、文明が進んでキレイになった
ことを免疫細胞自身は気ずいてなくて、
おそらく花粉などを寄生虫かな?くらい
の感じでアレルゲン(抗原)に反応するよ
うな悲しい結果になっている。

英国の科学雑誌『ネイチャー』に取り上げられるまでは、誰もが茂呂さんの研究に無関心でしたが、『ネイチャー』に取り上げられた途端、茂呂さんの周りは急に忙しくなった。

この寄生虫が来たわけでもないのに、免
疫が反応してしまう仕組みを明らかにし
た茂呂さんの研究は世界的な科学雑誌
『ネイチャー』に掲載されるとともに、
自然免疫に対する認識を180度変える大
発見になったんですよ。

科学雑誌『ネイチャー』に載った翌年から身の周りが忙しくなりました。

学会でポスター発表しても、ほとんどが
素通りで、身内しか見に来ない感じだっ
たんですけど、『ネイチャー』に載った途
端、翌年の免疫学会では群がる群衆を前
に説明するようになり、『いやあ、素晴ら
しい研究ですね。』 と皆んなから言われ
ました。

『私のポスター発表には身内以外は誰も来なかったくせに!』『誰も素晴らしいなんて言ってくれなかったくせに!』

私はずっとこの素晴らしい研究に取り組
んで来たのに、誰も素晴らしいなんて言
ってくれなかったくせに!と思いました
。 世の中の人というのは自分の意見で動
いているのではなくて、『どうやらこれ、
素晴らしいらしいよ!』っていう目線で
物事を見ているのかなあと思いました。

       【続く】

 

 

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