99歳の坂木原さんという人のお話です。
私は今99歳、東京の二階建ての家に静
かに一人暮らし。もう階段を昇り降り
することもありません。寝室も台所も
すべて一階にまとめました。妻が亡く
なってから10年以上。子供はおりませ
ん。

妻が亡くなってからもう10年経ちます。子供はおりません。
耳は遠くなり、テレビの音は少し大
きめ。目はかすみがちで、杖を頼りに
ゆっくりと歩くようになり、時には自
分の名前すら一瞬思い出せなくなるこ
ともあります。

今、私は99歳。寝室も台所も全部1階にまとめ、寂しく一人暮らしをしています。
かつては教壇に立ち、胸を張って生徒た
ちに語りかけていたことを、いまの姿が
まるで他人のように思えてなりません。
『人生は長くなればなるほど静かになる
』そんな言葉を若かい頃、どこかで聞い
たことがあります。しかし実際は静けさ
の中にいて、これまで胸の中にしまって
きた後悔や未練が次第にハッキリと姿を
現して来るのです。

かつては教壇に立ち、胸を張って生徒に語りかけていた。
穏やかな時間の中で、これまで歩んで来
た人生を幾度となく振り返る。そしてそ
の度にアレは間違いだった。あの時もう
少し違う選択が出来ていたなら、そんな
思いが胸にこみあげて来るのです。

これまで歩んできた人生を幾度となく振り返る
70代のあなたは階段を登るのも、少し遠
くのスーパーまで歩くのも、それほど苦
にならないでしょう。朝の光を浴びなが
ら新聞をめくり、誰かと気軽に言葉を交
わせる。だけどそれが永遠に続くと思っ
てはいけません。でも私はかつてそう思
っていたのです。

99歳にもなると、階段を登るのも、近くのスーパーへ買い物に行くのも苦になる。
まだ大丈夫、来年から始めよう。そのう
ち余裕が出来たら始めよう。けれどその
うちは決して私を待ってくれませんでし
た。時間は思っているよりも早く過ぎ去
り、気ずいた時には、選べるもの、出来
るコトが一つずつ消えて行ったのです。

70代はまだ時間があるから、99歳のわしの話をよく聞いちょれ!
でも70歳のあなたには時間があります。
歩けます。歩けるのならまだ変えられる
のです。
【続く】