「師を見るな。師の見ているものを見よ」

師匠と弟子

 

大学の医局員をやっていた頃、うちの
医局は、歯周病と根の治療という何とも
地味な講座で、実は一番大切なところを
担当していると私は思っているのですが
、卒後、新人の時はベテランの先生や
教授、准教授のもとで治療するワケです。

大学病院では時間の許す限り、治療やオ
ペを張りついて見ていました。

ベテランの先生は「しっかり見ておけ」
と言うばかり。

訊いたら答えてくれる。
訊かなかったら何も教えてくれない。

大学の先生たちは忙しいのだ。
研究・臨床・学生教育に。

うちの医局の講座には当時、第1研究室
~第4研究室というのがあって、それぞ
れ8人ずつ机が与えられる。

新人とか2年目の先生には机があたらな
い。

仕方ないから、廊下にロッカーだけ与え
られてそこに自分のものをしまう。

普段自分の机はないもんだから、先生た
ちが帰った後、その机を使わせてもらう
こともあった。

ワタクシが興味があったのは、ベテラン
の先生たちがどんな本を読んでいるのか
ということ。

そこで時々、コッソリ、机の棚にある本
にパラパラ目を通し、これはイイ本だと
思えばさっそく書店に注文して買って
読んでいました。

今思えば、芸の伝承と同じで、やってた
ことは「師を見るな。師が見ているもの
を見よ」だったのだ。

弟子が師を見ている限り、弟子は今の位
置を動きません。

今の自分を基準にして師の芸を解釈し、
マネすることで終わるなら、きっと芸の
レベルは代が下がるにつれて劣化してし
まう。

現に多くの芸はそうやっていつの間にか
消えてしまいました。

やはり師を見るんじゃなくて師の見てい
る本から学べということか。

つまり、自分の頭を使って考えろという
ことなのです。

もしも万が一ワタクシに弟子がいたとし
たら、教えるものなんて何もないので、
ま、あるとすれば礼儀作法や態度ぐらい
が関の山かなぁと思っていたのですが、
弟子は師が教えなくても勝手に学ぶもの
らしいので、チョット安心しました。

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