脳病院北杜夫の「楡家の人びと」という小説があります。
その中に、青山に東京名物になるような日本一の巨大脳病院を建てた、祖父の斉藤紀一の話が載っています。
脳病院って、今でいう精神病院のコト。
紀一の息子が歌人の斉藤茂吉、その息子が北杜夫。
聴診器を頭にあて、「いや、君の脳は悪い。
たしかに悪い。私のあげる薬を飲みなさい。
これは日本一の薬なんだから。」などと言い放つ。
あるいは、耳の穴をのぞき込み、「あぁ、あんたの脳はただれている。腐りかけている。
ちゃんとそれが見える・・・まぁ、私にまかせなさい。腐った脳を私がちゃんと治してあげるから。」と言ってみたり。
もちろん聴診器を頭にあてるなどイミないし、耳の穴から脳が見えるわけでもありません。
日本一という言葉にも、何のウラ付けもありません。
ところが患者さん、祖父のこうした言葉を一も二もなく信用していた。
これを読んだ三島由紀夫先生は、祖父のことを「なんという魅力のある俗物だろう」と書いておられるトカ。
ワタクシも斉藤紀一のような俗物の先生でありたい。